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古事記からつづく髪フェチの心性 髪長姫物語のヴァリアント

こちらの記事道成寺縁起の3物語を整理して、こちらの記事では最初の物語である「宮子姫髪長譚」を紹介した。

怒れる蛇女清姫がうそつき僧侶安珍を蒸し焼きにした伝説のみが、道成寺縁起というわけではないのだ。

道成寺建立のうらでは、美しく長い(長すぎる)髪をもった女性と、なぜか海底に沈み、見つけてほしさに光を発していた観世音さま、そして労災死した現場責任者である道成卿たちの命運がからみあっていた。

そんな道成寺最初の物語「宮子姫髪長譚」。『道成寺絵とき本』に載る物語であるが、道成寺と宮子姫(髪長姫)の物語はほかにもヴァリアントがあるようだ。

梅山(2009, 2010)にて髪長姫物語の収集・論考がなされていたので、これにもとづきヴァリアントをチェックしてみたい。

 

論文では、次の6種類にふれられている。

1. 道成寺絵とき本「宮子姫髪長譚」

道成寺護持会による発行。発行「小野宏海述」とあるように、道成寺にて長らく口承されてきたものを小野宏海師が口述した物語。

2. 道成寺蔵の絵巻「道成寺宮子姫伝記」

上下巻の絵巻物。(1)はこれの上巻を下敷きにしているそうだ。

3. 紀道神社蔵の絵巻「紀道大明神縁起」

労災死した道成が流れついたさきで建てられた神社、紀道神社の由緒を語る絵巻物。道成中心の物語だが髪長姫にもふれられている。

4. 「古事記」「日本書紀」の髪長姫物語

道成寺とのかかわりはないが、髪長姫モチーフの物語が登場する。

5. 菅江真澄『筆のまにまに』巻四の髪長姫物語

道成寺とはかかわりはないが、紀州淡島の加太神社に伝えられる物語であり、道成寺髪長姫からの派生と考えられるという。

6. 柳田國男「髪長媛」で紹介される諸国の説話

これも道成寺とは関係なし。『定本柳田国男集』第8巻(筑摩書房, 1962)所収。

 

髪長姫にまつわる大まかな物語がこの6種類、うち道成寺とかかわるものは1〜3. の3種類、派生型としての5. と整理できる。時間をみつけてこれらの物語を網羅してみたい。

髪フェチとはよくきく言葉だが、髪フェチの血は古事記の時代から脈々とうけつがれてきたものだったのだなあ。前回紹介した「宮子姫髪長譚」の、巣にひっかかっていた髪1本だけみて持ち主の女性を宮廷に迎え入れようと決心するなんて、髪フェチが行きつくところまで行っちゃった感がある。ぶっとんでるぜ。

怪異ファンとしては、女性の長い髪ときくとつい怪談を想起してしまう。いつからどのように女性の髪が美の象徴となり、いつからどのように女性の髪が恐怖の対象となったのかを知りたいところだ。

参考:
梅山秀幸, 2009, 「日本における「トリスタンとイズー」伝承群(一) : 髪長姫、絵姿女房、イズー、そして玉鬘」, 桃山学院大学人間科学(37), 5-34.
梅山秀幸, 2010, 「日本における「トリスタンとイズー」伝承群(二): 髪長姫、絵姿女房、イズー、そして玉鬘」, 桃山学院大学人間科学(38), 27-72.